title:ナンセンス太郎 ver.1.0j
木村応水 作
1999.12


 TFXのタロウの経済上の場合を考えよう。タロウはその王国にすべ
て財貨を集めることで豊かになろうと考えた。すべての土地、すべての
邸宅、すべての自動車、すべての穀物など、すべての財を集めるのであ
る。タロウは人のものを奪うつもりはないが、額に汗して働くつもりも
ない。そこでタロウは贋金作りをすることにした。王国の通貨の原盤を
正確に模造したため、大蔵省の役人でも本物と贋金の区別がつかない。
こうすれば誰にも欺かれることはない、とタロウは考えた。国民がタロ
ウから受け取る通貨は本物と区別がつかないから、それと気づくことも
なく、それ以後本物として通用する。その王国で流通しているすべての
財の価格全体を、10億ドル相当とタロウは見積もった。そこでタロウ
は10億ドル分の贋金を用意して、品物を購入しはじめた。
タロウの贋金作りは経済上の永久機関である。ここでもやはり失敗に
終わる運命にある。その理由は次のとおりである。
タロウは最初に支払う通貨については、その価値相応の品物を入手で
きる。何も問題が表面化する前に、たとえば数百万ドルを使うことはで
きる。しかしタロウの贋金作りが誇大妄想的であるために、このもくろ
みは失敗してしまう。タロウは1ドルの価値ある品物ごとに1ドルの贋
金を作った。流通している本物の通貨と贋金の量は同じである。その結
果、タロウが贋金を流通させたことで、経済状況が変化してしまう。
贋金が出回ることで通貨の供給が増加し、この王国は急激なインフレ
ーションに陥る。品物の価格が高騰し、タロウはより高い買物をせねば
ならなくなる。贋金を余分に使えば使うほど、価格上昇もそれに追従す
る。タロウがすべての財貨を手にいれるずっと前に、贋金は底をついて
しまう。
贋金を余分に印刷すればするほど、タロウは紙とインクを余分に必要
とする。ある日手押し車いっぱいの10万ドル札で紙とインクの在庫を
補充した。その帰路、紙とインクの入った手押し車が、往路より軽くな
っていることに気づいた。もし紙とインクを購入するために支払った紙
とインクでできた贋金のほうがずっと重いのであれば、贋金作りのコス
トはできた贋金ではまかないきれないことになる。
これが十分多量の贋金にまつわる問題である。しばらくすると贋金作
りによって、その贋金を作る紙のコストがひきあわなくなるほどのイン
フレーションに達してしまう。それ以後は贋金作りは無意味である。贋
金を作れば作るほど損失が増大するからである。

 すべての知識は贋金である。世界のある部分での知識を獲得するため
には、他の部分での知識を犠牲にせねばならない。無知は移動するだけ
で、消滅はしないのである。

アートは人間の目的や理解により関係のある特定の情報を抽出する過
程なのである。