title:アンフィオニイ批評2 ver.1.0j
木村応水 作
1966


  Inter Communication 18
 『インテリジェント・パッド技術について』
 インテリジェント・パッドは様々な知的資源を、多数の断片(パッド)
とそのはり合わせ構造によって表現するソフトウエア・アーキテクチャー
です。「知的資源」はテキストであっても、グラフィックスや音や映像
であっても、あるいはアプリケーションソフトやソフトウエア部品であ
っても構いません。この「知的な」パッドは色々なコンピュータ・プラ
ットフォームの上で作成でき、ネットワークを通じて共有・配布・流通
させることができます。インテリジェント・パッドシステムの上で部品
パッドを材料としてアプリケーションや複合文書などの複雑な知的資源
を合成したり、あるいは完成したアプリケーションを小さな部品に分解
して様々な用途に再利用することができます。インテリジェント・パッ
ドでは全てのパッドが「メディア・オブジェクト」として統一的に扱わ
れます。パッドにパッドをはり合わせるときの連携の仕方は「スロット
選択」という方法で利用者が指定します。インテリジェント・パッドは
可視的・合成的なメディアのパラダイムを提案し、部品化シフトウエア、
知的「資源」の開発、管理、流通、統合への道をエンドユーザーに提供
するものです。

 ソフトウエア開発者、マルチメディア・タイトルの開発者、エンド・
ユーザーのどの立場であっても、自分たちが共通ののメディアの容れ物
の上で開発でき、成果物をカスタマイズでき、人と共有し流通できると
すれば大きな恩恵に預かることができます。もし人々の仕事の成果がい
ったん、複数のプラットフォームの上でネットワークを介して共有・流
通されるようになれば、パッドは急激にその数を増していきます。イン
テリジェント・パッドのような構造が広く採用され、様々なパッドが私
たちの社会に蓄積されることによって、パッドのための自然発生的な
「市場」とインフラストラクチャーが形成されます。さらに電子流通シ
ステムや、知的所有権の保護のためのシステムが整備されることによっ
て、新しい「パッドウエア」の市場環境ができあがると予想されます。


 『ミーム・メディアとミーム・プールのアーキテクチャ』 田中 譲
 文化とは、外在化された知識や情報が共有され、引用され編集されて
新しい知識や情報を生み、それらが順に積み上げられたものと考えるこ
とができる。知識や情報の外在化によって、個体が獲得した知識や情報
が体外に記録・保存され、コミュニティにおいて流通するようになり、
共有されるようになる。そうすると、保存されている情報の引用や再利
用が可能になり、それを用いて新しい知識や情報を編集することが可能
になる。新しい知識や情報は同様に共有され、コミュニティが保存する
共有知識の上に積み上げられる。これが文化といわれるものである。こ
の過程で、われわれは情報の(1)外在化、(2)記録・保存、(3)
流通、(4)共有、(5)引用、(6)編集の6つの情報活動を行って
いる。社会において流通され編集されるあらゆる知的資源からなる文化
の発展を支援するには、これら6つの情報活動をすべて統合的に支援で
きる新しいメディアをコンピュータ上に定義し、そのメディア文化を育
だてることが必要である。このようなメディアは、編集と流通の機能を
持つことが特徴である。
 社会における文化の編集と流通の媒体としてのメディアは、遺伝子と
同様に編集、複製が可能で、社会によって自然淘汰されるという特性を
持ち、R.ドーキンスのいうミーム(文化遺伝子)の特徴を持つミーム
・メディアであるといえる。遺伝子は、組み替えと、増殖と、淘汰によ
って進化してきた。R.ドーキンスは同様の機構が文化の進化にも働い
ているのではないかと考え、ミームという概念を提案した。組み替えは
編集に、増殖は複製と流通に、淘汰は引用に対応する。


 『超流通』 森亮一
 それは簡単にいえばデジタル情報を「所有」ではなく「利用」を前提
として流通させ、利用者にとっての利便と、情報や知識の生産・編集者
の利益を両立させようとした仕組といえる。無限に複製できるデジタル
情報の特性を生かし、コピーを前提とした社会システムを作ろうという
発想に立っている。つまり、コピーはいくらでもOK、プログラムやデ
ジタル・コンテンツを使用した分だけ料金を支払い、その対価は情報を
作った本人が受け取れる仕組を作ろう、というわけだ。
 具体的には、デジタル・コンテンツやプログラムにバーコードのよう
な「超流通ラベル」を電子的に添付し、ユーザーがそれらを使用した時
にコンピュータに接続され、あるいは内臓されている「超流通ラベルリ
ーダー」がラベルを読み取り、使用記録がネットワークなどを通じて転
送されて、それをもとにクレジット会社などが利用料金を精算するとい
う仕組みをとる。既に一部で行われている「CD−ROM鍵サービス」、
CD−ROMに多数のソフトを暗号化して収録し、ユーザーが利用した
い時にネットワークを通じて暗号を解く鍵を配送、代金はカード決済、
などは超流通の原初的な形態といえる。またアメリカでは、このコンセ
プトに近い「ソフトウエア・メーリング」のサービスも始まっている。
近い将来に実現されるデジタル・キャッシュの導入により、ネットワー
ク上での課金を多様な形で実現可能になるだろう(例えば使用3回まで
は無料、利用10回目から割引き、買い取りの後の返金など)。こうし
た超流通とインテリジェント・パッドの流通システムがインターネット
上に展開されれば、物財に依拠しない情報経済の離陸が本格化していく
ものと考えられる。


 『リテラリーマシン、ハイパーテキスト言論』 テッド・ネルソン
 文書の境界と所有権がはっきりすれば、はるかに複雑な文書を記憶す
る方法をつくることができる。また、記憶された文書に他の人々が自由
に手を入れられるような記憶法も可能になる。このため、「複合文書」
というものが必要になってくる。
 複合文書の論理は単純である。文書の所有権の概念に基づいているの
だ。文書にはすべて所有者がいる。所有者以外のだれも修正できなけれ
ば、この文書の一体性は保持される。
 しかし、所有者以外でも好きなだけそこから引用して別の文書をつく
ることはできる。このメカニズムを〈引用窓〉または〈引用リンク〉と
呼ぶ。新しい文書の「窓」を通して、もとの文書の一部を見ることもで
きる。これを〈トランスクルージョン(包含)〉と呼ぶ。
 窓が付けられた(あるいは窓が開いた)文書の窓とは、文書間のリン
クのことである。窓を通して引用されているデータはコピーされない。
引用リンクのシンボル(またはこれと本質的に同じもの)が引用してい
るほうの文書に置かれるだけである。こうした引用はもとの文書のコピー
をつくるわけではないので、もとの文書の一体性、独自性、所有権に何
の影響も与えない。